リバイバル特集 ~本物の心臓手術見学記~
(元)心臓病仲間による手術体験の記事はネタ切れ(投稿募集中!)ということで、今日は聖なる心臓手術の現場を、仲間の三つ葉葵さんと私で見学した見学記のリバイバル紹介です。
まずは心臓手術の見学記をアップする目的です。術前に病気や手術のことを調べたり情報収集される方は多いです。「手術中はどうせ麻酔にかかって寝ているのだから、ちゃんと手術してくれればどのように治療していたかなんて興味ないよ」という方もいらっしゃると思います。自分の場合も、術前は手術を見学したいなんて夢にも思っていませんでした。術後になって初めて、心臓病克服の一番のハイライトである本物の心臓手術をこの目で見たいと強く思うようになりました。同じように思われている方は多いと思いますが、実現は簡単なことではないので、その雰囲気だけでも共有してもらえたらと思ったのが目的です。そういう訳なので、今回の記事は、どちらかと言うと術前より術後の方に向けた記事かもしれません。
TVドラマなどで病院のお偉いさんが手術室の上部にあるガラス窓から下でやっている手術の様子をのぞき見るような場面が出てきます。しかし、私が体験した手術見学はそうではありません。手術着を着て、実際に心臓手術が進行しているその手術室の中に入っての実見学です。南淵先生の著書に、海外では手術室の事をシアターと呼ぶのだと書かれていました。先日見たTVドラマに登場した手術室の入口に「THEATER」と書かれている画面がちらっと映っているのを見て、「あっ、本当にシアターっていうんだ」と思いました。限られた人しか入れない特別な空間ではなくて、隠し事のないオープンに開かれた場所で行われる手技(人の手の技)を演ずる場所が手術室ということでシアター(劇場)という名前の由来があるのかもしれません。
我々患者は、手術を受ける当日、手術室に入室してから全身麻酔で記憶が閉ざされたまでの僅かな時間しか、この興味深き手術室の中を観察することができません。私の手術当時、南淵先生は民間病院にお勤めだったので自分の手術のDVDを頂くことができました。それによって、自分の心臓に演ぜられた手術の様子を客観的に観て知ることができました。人間というものは欲が広がるもので、その後、実際の心臓手術が行われている生の手術現場を見学したいという欲求が私の心に徐々に増大してきたのは上述した通りです。
そこで相談する相手はと言えば、南淵先生と深津さんしかいません。快く手術見学の許可を下さり、その様子をレポートした心臓手術見学記が今回のリバイバル記事です。一度目の見学では私が受けたのと同じ僧帽弁形成術を、二度目は大動脈弁置換術を夫々南淵先生の執刀で見せてもらうことができました。医療関係者や報道関係者であればこのような手術見学も珍しくないと思います。しかし、心臓手術を経験しただけの一般の患者が、自分が受けたのと同じ心臓の手術を見学することはあまりない事でしょう。そのような貴重な機会を与えて下さった南淵先生、深津さんと病院のスタッフの皆さんには大感謝しています。
第十三回(元)心臓病仲間の集まりで、手術見学の時に撮影した臨場感ある動画をスクリーンに投影して上映しました。皆さん無言で鑑賞されていたように思います。(集まりに参加されて一緒に観ていた南淵先生はああだこうだと色々実況コメントされていましたが・・・)。興味のある方には見学動画を今後機会があれば公開していきたいと思います。どうぞお楽しみに。
それまでは、こちらの心臓手術見学記事をご覧ください。
東京ハートセンター 心臓手術見学記
https://comebackheart.blog.fc2.com/blog-entry-174.html
東京ハートセンター 心臓手術見学記 第二弾
https://comebackheart.blog.fc2.com/blog-entry-225.html
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まずは心臓手術の見学記をアップする目的です。術前に病気や手術のことを調べたり情報収集される方は多いです。「手術中はどうせ麻酔にかかって寝ているのだから、ちゃんと手術してくれればどのように治療していたかなんて興味ないよ」という方もいらっしゃると思います。自分の場合も、術前は手術を見学したいなんて夢にも思っていませんでした。術後になって初めて、心臓病克服の一番のハイライトである本物の心臓手術をこの目で見たいと強く思うようになりました。同じように思われている方は多いと思いますが、実現は簡単なことではないので、その雰囲気だけでも共有してもらえたらと思ったのが目的です。そういう訳なので、今回の記事は、どちらかと言うと術前より術後の方に向けた記事かもしれません。
TVドラマなどで病院のお偉いさんが手術室の上部にあるガラス窓から下でやっている手術の様子をのぞき見るような場面が出てきます。しかし、私が体験した手術見学はそうではありません。手術着を着て、実際に心臓手術が進行しているその手術室の中に入っての実見学です。南淵先生の著書に、海外では手術室の事をシアターと呼ぶのだと書かれていました。先日見たTVドラマに登場した手術室の入口に「THEATER」と書かれている画面がちらっと映っているのを見て、「あっ、本当にシアターっていうんだ」と思いました。限られた人しか入れない特別な空間ではなくて、隠し事のないオープンに開かれた場所で行われる手技(人の手の技)を演ずる場所が手術室ということでシアター(劇場)という名前の由来があるのかもしれません。
我々患者は、手術を受ける当日、手術室に入室してから全身麻酔で記憶が閉ざされたまでの僅かな時間しか、この興味深き手術室の中を観察することができません。私の手術当時、南淵先生は民間病院にお勤めだったので自分の手術のDVDを頂くことができました。それによって、自分の心臓に演ぜられた手術の様子を客観的に観て知ることができました。人間というものは欲が広がるもので、その後、実際の心臓手術が行われている生の手術現場を見学したいという欲求が私の心に徐々に増大してきたのは上述した通りです。
そこで相談する相手はと言えば、南淵先生と深津さんしかいません。快く手術見学の許可を下さり、その様子をレポートした心臓手術見学記が今回のリバイバル記事です。一度目の見学では私が受けたのと同じ僧帽弁形成術を、二度目は大動脈弁置換術を夫々南淵先生の執刀で見せてもらうことができました。医療関係者や報道関係者であればこのような手術見学も珍しくないと思います。しかし、心臓手術を経験しただけの一般の患者が、自分が受けたのと同じ心臓の手術を見学することはあまりない事でしょう。そのような貴重な機会を与えて下さった南淵先生、深津さんと病院のスタッフの皆さんには大感謝しています。
第十三回(元)心臓病仲間の集まりで、手術見学の時に撮影した臨場感ある動画をスクリーンに投影して上映しました。皆さん無言で鑑賞されていたように思います。(集まりに参加されて一緒に観ていた南淵先生はああだこうだと色々実況コメントされていましたが・・・)。興味のある方には見学動画を今後機会があれば公開していきたいと思います。どうぞお楽しみに。
それまでは、こちらの心臓手術見学記事をご覧ください。
東京ハートセンター 心臓手術見学記
https://comebackheart.blog.fc2.com/blog-entry-174.html
東京ハートセンター 心臓手術見学記 第二弾
https://comebackheart.blog.fc2.com/blog-entry-225.html
東京ハートセンター 心臓手術見学記 第二弾
(元)患者である自分が受けた心臓手術をこの目で観てみたい。その思いを実現させるため、2年前に南淵先生執刀の心臓手術見学の機会をいただいた。その時の記事はこちらへ。
もう一度、心臓手術を観たい。今度はもう少し落ち着いて観るべきポイントもしっかり押さえて観てみたい。となれば、南淵先生と深津さんに再度相談するしかない。考心会や外来で南淵先生にその旨申し出ると、「はい、いつでもいいですよ」と軽いお答えが帰ってくる。
何か月か経ち、深津さんと見学の具体的な日程調整を開始する。そして見学日が決定。同行者は前回同様に三つ葉葵さん。手術見学の日程が決まると、気持ちは穏やかではない。来る写真展示会用に手術の様子を沢山撮影したい。前回の手術見学で最適なレンズの焦点距離やフィルムの必要本数はイメージがついている。展示会用にはモノクロのフィルムで撮影して、暗室作業でバライタ印画紙のプリントに仕上げる予定だ。あと、心臓病仲間に見学の様子を見せるために動画も撮っておこう。ブログ用のデジカメ写真も必要だ。手術室に沢山の私物は持ち込めない。ロケットに乗る宇宙飛行士のごとく機材は必要最小限のものに厳選しなくてはならない。見学前夜、厳選した機材をアルコール液で拭き取り消毒しておいた。
前回の見学は、私が受けたのと同じ術式である僧帽弁閉鎖不全症弁形成術であった。今回は異なる術式をリクエストしたところ、大動脈生体弁置換手術を見学させて頂けることになった。手術見学をより有意義にするために、素人なりにも手術手順を勉強しておきたい。前回の見学前にも読んだ「手術看護-手術室のプロをめざす (動画でわかるシリーズ)」
」と「「実践 人工心肺」
を本棚から出してきて手術見学の予習をする。
見学当日。予定の時刻に病院に到着。普段の外来で診察券と保険証を提示する受付に近づく。窓口の女性に今日は手術見学でやってきた旨を伝える。手術担当の外回り看護師さんが迎えにきて下さった。エレベーターで2階に移動し、職員の方が使う更衣室をお借りする。見学者用の名札がついたロッカーが用意されていた。上下、青い手術着に着替える。帽子とマスク、靴を覆うカバーを装着して、入室準備は完了。
手術室は2室ある。両方の手術室で並行して手術が行われていた。その隣にはカテーテル検査室があった。ICUは手術室と同じフロアーに配置されている。

(この扉の奥が手術室)
いざ、手術室に入室。さすがに2年前初めて手術見学したときほどの躍動感はなかった。落ち着いて周りの状況観察をはじめる。患者の全身の消毒が終わり、まさに執刀が開始されるところだった。胸骨正中切開はまだ行われていない。前回の見学は、胸骨正中切開直後の入室だったので、今回は是非ともその場面を見たいと思っていた。

(手術見学中のカムバックハート)
南淵先生が患者に配っている心臓手術のDVDの映像で、インパクトのある瞬間の一つは、電気ノコギリで患者の胸骨を縦に切り開く胸骨正中切開のシーンだ。弁の形成修復や人工弁置換の過程での術者の手の動きも見飽きない。また、手術終盤に胸骨を閉める際のワイヤー巻きのシーンも野蛮で印象的だ。
助手の宮崎先生が手術を進行している。器械出しは深津さん。入室して間もなく、胸骨を切り開く電気ノコギリが深津さんの手から宮崎先生に渡された。モーター音が鳴り、胸骨の正中切開を始めたと思ったら、僅かな時間であっけなく終わってしまった。


(胸骨を電気ノコギリで切開中)
宮崎先生は、なんといっても執刀時の姿勢が恰好良い。糸を結ぶ手先の動きも滑らかでスムーズ。とても好印象!

(執刀中の宮崎先生)
暫くして南淵先生が入室。手術進行の様子を伺いに来られた。
「胸骨を切るところはちゃんと見た?」
「はい、今回はしっかりと見ました!」
「僕がいつも患者さんにあんな野蛮なことをやってると思われると印象が悪くなるから(笑)・・・今日は宮崎先生に切開をお願いしておいたからね」
と言われて、南淵先生は一旦退室。

(開胸器)
開胸し心膜を開いて心臓を露出させたら、人工心肺の取り付けにかかる。人工心肺技師(ME)さんの動きが慌ただしくなる。研修だろうか、人工心肺の動かし方やモニターの見方など、作業の様子を見学してノートを取っている方が数名いた。

(人工心肺とMEさん)
そうしているうちに南淵先生が再び入室。外回り看護師さんが手術用ガウンの装着を手助けする。手術用手袋は深津さんとの息があった動作でスポッ、スポッと装着。

(この写真は南淵先生の手術作業が終了して手術用ガウンを脱ごうとしているとき)
手術開始からまだ1時間も経っていないが、逆流を起こしていた大動脈弁は素早く切り取られて病理検査に回される。

(心臓から切り取った逆流を起こしていた大動脈弁。通常の大動脈弁は3尖弁だが、この症例では二つの弁がくっついて2尖弁状態になっていた模様)
適応する人工弁のサイズをサンプルの中から実際に大動脈に当ててみて決定する。ここから弁の取り付けにかかる。

(深津さんの左手にこれから植えつける人工弁。手前の白いケースに入っているのが人工弁のサイズを決めるサンプル)
宮崎先生が専用の器具に付いた人工弁を空中に持ち、南淵先生がその人工弁の周囲のテフロン部分に糸を沢山かけていく。糸をかけ終わると、人工弁を静かに心臓に添えて、そこに糸で縫い付けていく。南淵先生の大きな手が何度も何度も糸の結び目を作り出しては締め付けられていく。

(南淵先生執刀中!)

(南淵先生が糸で縫っているところ)
南淵先生の背後に置かれた見学者用の踏み台に登り、手術の様子を目前に直視する。取り付けられた人工弁の様子がよく見えた。目の前で南淵先生と深津さんが行っている器材の受け渡しの様子も拝見する。手術見学には最良のポジションだ。

(人工弁を埋め込んだ心臓。ほぼ真上からのアングル)

(執刀医の位置からの視界。右奥に人工心肺、左奥に心エコーのモニター画面が見えます)

(作業中の深津さんを上から)

(手術中の南淵先生のアップ写真。拡大鏡を装着。普通はこんな近くで撮れません!)
手術は予定されていた通り進行したようだ。弁置換が終わり、人工心肺から心臓を離脱させる。南淵先生の本によると人工心肺技師(ME)さんの腕の見せ所がこの人工心肺からの離脱だそうだ。上手な旅客機のパイロットは、乗っている乗客がいつ着陸したのか分からないくらい上手に飛行機をソフトランディングさせる。それと同じように、人工心肺に乗って寝ていた心臓のご機嫌を損ねないように心臓を再鼓動させるのだ。

(手術の器材が置かれた台。左に行くほど清潔領域。左側にこれから使用する器材。右側に使用済の器材が置かれる)
前回の見学では勝手が分からず、手術室の中であまり動き回れなかった。清潔と不潔の領域が徹底されているので、見学者が清潔領域を侵してはならない。今回はそうしたことに注意しながら、前回よりも多めに室内を移動してみた。手術中の患者のバイタル管理は麻酔科医が行っている。患者さんの頭の方に居るのが麻酔科医。径食道心エコーの画面がすぐ横においてあって、手術中はエコーでも継続的に心臓の動きがモニターされている。執刀医の方からは布で隔てられているので患者の顔は見えない。患者さんの顔が手術中どういう状況になっているのか興味がある。麻酔科医の側に回り込んでみた。口から人工呼吸器の管を気管内挿管されて麻酔で寝ている患者さんが見えた。自分の手術の時もこのような状態だったんだなと思って見学を続ける。

(患者さんの頭の方から手術室内を見たところ。手前にいるのが麻酔科医)
ピッ、ピッという脈の動きを伝える電子音が快調に手術室に響いている。室温は23度。

(南淵先生、宮崎先生と深津さん)
人工心肺からの離脱が完了。人工心肺の機材は手術中であっても直ぐに次の手術に向けて整備が開始される。技師の方全員が消毒液で丁寧に汚れをふき取っていた。血液を循環させた管類は使い捨て。
今日の開胸時のBGMは激しいロック音楽!術中は音楽は鳴っておらず、閉胸時はJ-POPだった。

(これから胸骨に巻き付けるワイヤー 撮影:三つ葉葵さん)

(ワイヤーを回して閉めているところ)

(使用済のガーゼ。胸を縫い閉じる前に枚数をカウントして体内に留置がないことが確認されます)

(皮膚を縫い閉じるところ。ホースのようなドレーンの管が2本出ています)
皮膚を縫い終わり、「はい、終了!」と宮崎先生が一言仰って執刀終了。無影灯がプチッと切られる。
南淵先生が我々に 「Any question?」と問いかけ。
実は、以前から手術室で尋ねようと思っていたとっておきの質問があったのだが、その場で失念していた。その質問は次回に取っておこう。
手術は約3時間で終了。閉胸後は、スタッフ数人で患者の身体に塗られたイソジンのような消毒液をふき取る。そして、レントゲン撮影を行ってからICUに移動となる。
今回はICUの中まで見学を延長させて頂いた。ストレッチャーで運ばれた患者さんがICUのベッドに移された。そして、早くも手術着から着替えられた宮崎先生が患者さんの体に各種モニターを接続している。驚いたことに、ICUに入って数十分もすると、患者さんは麻酔から覚醒しはじめている。体が揺れたり、目が開き始めたり。説明してくれたICU看護師さんのお話だと、麻酔の種類やそのやり方によって覚醒しはじめる時間が違うのだそうだ。今の東京ハートセンターの場合、手術が終了したら早い段階で覚醒する麻酔のやり方らしい。私が大和成和病院で受けた手術よりも数時間早く覚醒しているようだ。先日東京ハートセンターで手術を受けられた仲間の方も、朝9時からの手術で、13時にはもう目が覚めていたとご本人が仰っていた。
さて、心臓手術を経験した(元)患者が、心臓手術を見学をした時の心境は?
6年半前のあの日あの時、自分はこの目の前の患者さんのように、同じ執刀医と同じ器械出し看護師による手術を受けていたのだなあというデジャヴ的な場面想起・・・

(手術見学中の三つ葉葵さん)
執刀医の名前は覚えていても、助手の外科医の名前は覚えていない、あるいは名前を聞いてもいない患者がほとんどだと思う(私は覚えているが)。 実は執刀医と同様に手術の過程で重要な役割を担ってくれているのが助手の外科医だと思う。皮膚を最初に切るのも、最後に縫い閉じるのも通常は助手の外科医なのだし。器械出し、外回り、麻酔、技師、夫々の技量が調和して手術全体のレベルが上がる。執刀医同様に、その病院の助手の外科医や看護師の評判も手術を受ける病院を決める際の判断材料にしてよいと思う。助手の先生は術後患者のケアで普段病室を頻繁に回ってらっしゃるはず。その病院で手術を受けた患者の話を聞くことができれば定性的な情報が得られる。第一執刀医をやっている先生が別の先生の助手にも入るような病院は、名前も分からない研修医が助手に入る病院で行われる手術とは質が異なっていることが想像される。術中に何かしらのトラブルが発生した時は特にそうだろう。指揮官である執刀医の力量は当然ながら、手術を実行するチーム全体のレベルの高さが重要だ。
2度目の手術見学も、充実感で満たされて終了となった。南淵先生、宮崎先生、深津さん、病院スタッフの皆様、患者さん、貴重な見学の機会を頂きありがとうございました。(今度はバイパス手術を観てみたいなぁ・・・)

(手術終了後に深津さん、三つ葉葵さんとカムバックハート)
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もう一度、心臓手術を観たい。今度はもう少し落ち着いて観るべきポイントもしっかり押さえて観てみたい。となれば、南淵先生と深津さんに再度相談するしかない。考心会や外来で南淵先生にその旨申し出ると、「はい、いつでもいいですよ」と軽いお答えが帰ってくる。
何か月か経ち、深津さんと見学の具体的な日程調整を開始する。そして見学日が決定。同行者は前回同様に三つ葉葵さん。手術見学の日程が決まると、気持ちは穏やかではない。来る写真展示会用に手術の様子を沢山撮影したい。前回の手術見学で最適なレンズの焦点距離やフィルムの必要本数はイメージがついている。展示会用にはモノクロのフィルムで撮影して、暗室作業でバライタ印画紙のプリントに仕上げる予定だ。あと、心臓病仲間に見学の様子を見せるために動画も撮っておこう。ブログ用のデジカメ写真も必要だ。手術室に沢山の私物は持ち込めない。ロケットに乗る宇宙飛行士のごとく機材は必要最小限のものに厳選しなくてはならない。見学前夜、厳選した機材をアルコール液で拭き取り消毒しておいた。
前回の見学は、私が受けたのと同じ術式である僧帽弁閉鎖不全症弁形成術であった。今回は異なる術式をリクエストしたところ、大動脈生体弁置換手術を見学させて頂けることになった。手術見学をより有意義にするために、素人なりにも手術手順を勉強しておきたい。前回の見学前にも読んだ「手術看護-手術室のプロをめざす (動画でわかるシリーズ)」
見学当日。予定の時刻に病院に到着。普段の外来で診察券と保険証を提示する受付に近づく。窓口の女性に今日は手術見学でやってきた旨を伝える。手術担当の外回り看護師さんが迎えにきて下さった。エレベーターで2階に移動し、職員の方が使う更衣室をお借りする。見学者用の名札がついたロッカーが用意されていた。上下、青い手術着に着替える。帽子とマスク、靴を覆うカバーを装着して、入室準備は完了。
手術室は2室ある。両方の手術室で並行して手術が行われていた。その隣にはカテーテル検査室があった。ICUは手術室と同じフロアーに配置されている。

(この扉の奥が手術室)
いざ、手術室に入室。さすがに2年前初めて手術見学したときほどの躍動感はなかった。落ち着いて周りの状況観察をはじめる。患者の全身の消毒が終わり、まさに執刀が開始されるところだった。胸骨正中切開はまだ行われていない。前回の見学は、胸骨正中切開直後の入室だったので、今回は是非ともその場面を見たいと思っていた。

(手術見学中のカムバックハート)
南淵先生が患者に配っている心臓手術のDVDの映像で、インパクトのある瞬間の一つは、電気ノコギリで患者の胸骨を縦に切り開く胸骨正中切開のシーンだ。弁の形成修復や人工弁置換の過程での術者の手の動きも見飽きない。また、手術終盤に胸骨を閉める際のワイヤー巻きのシーンも野蛮で印象的だ。
助手の宮崎先生が手術を進行している。器械出しは深津さん。入室して間もなく、胸骨を切り開く電気ノコギリが深津さんの手から宮崎先生に渡された。モーター音が鳴り、胸骨の正中切開を始めたと思ったら、僅かな時間であっけなく終わってしまった。


(胸骨を電気ノコギリで切開中)
宮崎先生は、なんといっても執刀時の姿勢が恰好良い。糸を結ぶ手先の動きも滑らかでスムーズ。とても好印象!

(執刀中の宮崎先生)
暫くして南淵先生が入室。手術進行の様子を伺いに来られた。
「胸骨を切るところはちゃんと見た?」
「はい、今回はしっかりと見ました!」
「僕がいつも患者さんにあんな野蛮なことをやってると思われると印象が悪くなるから(笑)・・・今日は宮崎先生に切開をお願いしておいたからね」
と言われて、南淵先生は一旦退室。

(開胸器)
開胸し心膜を開いて心臓を露出させたら、人工心肺の取り付けにかかる。人工心肺技師(ME)さんの動きが慌ただしくなる。研修だろうか、人工心肺の動かし方やモニターの見方など、作業の様子を見学してノートを取っている方が数名いた。

(人工心肺とMEさん)
そうしているうちに南淵先生が再び入室。外回り看護師さんが手術用ガウンの装着を手助けする。手術用手袋は深津さんとの息があった動作でスポッ、スポッと装着。

(この写真は南淵先生の手術作業が終了して手術用ガウンを脱ごうとしているとき)
手術開始からまだ1時間も経っていないが、逆流を起こしていた大動脈弁は素早く切り取られて病理検査に回される。

(心臓から切り取った逆流を起こしていた大動脈弁。通常の大動脈弁は3尖弁だが、この症例では二つの弁がくっついて2尖弁状態になっていた模様)
適応する人工弁のサイズをサンプルの中から実際に大動脈に当ててみて決定する。ここから弁の取り付けにかかる。

(深津さんの左手にこれから植えつける人工弁。手前の白いケースに入っているのが人工弁のサイズを決めるサンプル)
宮崎先生が専用の器具に付いた人工弁を空中に持ち、南淵先生がその人工弁の周囲のテフロン部分に糸を沢山かけていく。糸をかけ終わると、人工弁を静かに心臓に添えて、そこに糸で縫い付けていく。南淵先生の大きな手が何度も何度も糸の結び目を作り出しては締め付けられていく。

(南淵先生執刀中!)

(南淵先生が糸で縫っているところ)
南淵先生の背後に置かれた見学者用の踏み台に登り、手術の様子を目前に直視する。取り付けられた人工弁の様子がよく見えた。目の前で南淵先生と深津さんが行っている器材の受け渡しの様子も拝見する。手術見学には最良のポジションだ。

(人工弁を埋め込んだ心臓。ほぼ真上からのアングル)

(執刀医の位置からの視界。右奥に人工心肺、左奥に心エコーのモニター画面が見えます)

(作業中の深津さんを上から)

(手術中の南淵先生のアップ写真。拡大鏡を装着。普通はこんな近くで撮れません!)
手術は予定されていた通り進行したようだ。弁置換が終わり、人工心肺から心臓を離脱させる。南淵先生の本によると人工心肺技師(ME)さんの腕の見せ所がこの人工心肺からの離脱だそうだ。上手な旅客機のパイロットは、乗っている乗客がいつ着陸したのか分からないくらい上手に飛行機をソフトランディングさせる。それと同じように、人工心肺に乗って寝ていた心臓のご機嫌を損ねないように心臓を再鼓動させるのだ。

(手術の器材が置かれた台。左に行くほど清潔領域。左側にこれから使用する器材。右側に使用済の器材が置かれる)
前回の見学では勝手が分からず、手術室の中であまり動き回れなかった。清潔と不潔の領域が徹底されているので、見学者が清潔領域を侵してはならない。今回はそうしたことに注意しながら、前回よりも多めに室内を移動してみた。手術中の患者のバイタル管理は麻酔科医が行っている。患者さんの頭の方に居るのが麻酔科医。径食道心エコーの画面がすぐ横においてあって、手術中はエコーでも継続的に心臓の動きがモニターされている。執刀医の方からは布で隔てられているので患者の顔は見えない。患者さんの顔が手術中どういう状況になっているのか興味がある。麻酔科医の側に回り込んでみた。口から人工呼吸器の管を気管内挿管されて麻酔で寝ている患者さんが見えた。自分の手術の時もこのような状態だったんだなと思って見学を続ける。

(患者さんの頭の方から手術室内を見たところ。手前にいるのが麻酔科医)
ピッ、ピッという脈の動きを伝える電子音が快調に手術室に響いている。室温は23度。

(南淵先生、宮崎先生と深津さん)
人工心肺からの離脱が完了。人工心肺の機材は手術中であっても直ぐに次の手術に向けて整備が開始される。技師の方全員が消毒液で丁寧に汚れをふき取っていた。血液を循環させた管類は使い捨て。
今日の開胸時のBGMは激しいロック音楽!術中は音楽は鳴っておらず、閉胸時はJ-POPだった。

(これから胸骨に巻き付けるワイヤー 撮影:三つ葉葵さん)

(ワイヤーを回して閉めているところ)

(使用済のガーゼ。胸を縫い閉じる前に枚数をカウントして体内に留置がないことが確認されます)

(皮膚を縫い閉じるところ。ホースのようなドレーンの管が2本出ています)
皮膚を縫い終わり、「はい、終了!」と宮崎先生が一言仰って執刀終了。無影灯がプチッと切られる。
南淵先生が我々に 「Any question?」と問いかけ。
実は、以前から手術室で尋ねようと思っていたとっておきの質問があったのだが、その場で失念していた。その質問は次回に取っておこう。
手術は約3時間で終了。閉胸後は、スタッフ数人で患者の身体に塗られたイソジンのような消毒液をふき取る。そして、レントゲン撮影を行ってからICUに移動となる。
今回はICUの中まで見学を延長させて頂いた。ストレッチャーで運ばれた患者さんがICUのベッドに移された。そして、早くも手術着から着替えられた宮崎先生が患者さんの体に各種モニターを接続している。驚いたことに、ICUに入って数十分もすると、患者さんは麻酔から覚醒しはじめている。体が揺れたり、目が開き始めたり。説明してくれたICU看護師さんのお話だと、麻酔の種類やそのやり方によって覚醒しはじめる時間が違うのだそうだ。今の東京ハートセンターの場合、手術が終了したら早い段階で覚醒する麻酔のやり方らしい。私が大和成和病院で受けた手術よりも数時間早く覚醒しているようだ。先日東京ハートセンターで手術を受けられた仲間の方も、朝9時からの手術で、13時にはもう目が覚めていたとご本人が仰っていた。
さて、心臓手術を経験した(元)患者が、心臓手術を見学をした時の心境は?
6年半前のあの日あの時、自分はこの目の前の患者さんのように、同じ執刀医と同じ器械出し看護師による手術を受けていたのだなあというデジャヴ的な場面想起・・・

(手術見学中の三つ葉葵さん)
執刀医の名前は覚えていても、助手の外科医の名前は覚えていない、あるいは名前を聞いてもいない患者がほとんどだと思う(私は覚えているが)。 実は執刀医と同様に手術の過程で重要な役割を担ってくれているのが助手の外科医だと思う。皮膚を最初に切るのも、最後に縫い閉じるのも通常は助手の外科医なのだし。器械出し、外回り、麻酔、技師、夫々の技量が調和して手術全体のレベルが上がる。執刀医同様に、その病院の助手の外科医や看護師の評判も手術を受ける病院を決める際の判断材料にしてよいと思う。助手の先生は術後患者のケアで普段病室を頻繁に回ってらっしゃるはず。その病院で手術を受けた患者の話を聞くことができれば定性的な情報が得られる。第一執刀医をやっている先生が別の先生の助手にも入るような病院は、名前も分からない研修医が助手に入る病院で行われる手術とは質が異なっていることが想像される。術中に何かしらのトラブルが発生した時は特にそうだろう。指揮官である執刀医の力量は当然ながら、手術を実行するチーム全体のレベルの高さが重要だ。
2度目の手術見学も、充実感で満たされて終了となった。南淵先生、宮崎先生、深津さん、病院スタッフの皆様、患者さん、貴重な見学の機会を頂きありがとうございました。(今度はバイパス手術を観てみたいなぁ・・・)

(手術終了後に深津さん、三つ葉葵さんとカムバックハート)
東京ハートセンター 心臓手術見学記
私の夢の一つが実現した。それは、「心臓手術の見学」である。
そもそも、小さい頃から医療に全く興味がなく、将来職業を選ぶときに医者にだけはなるまいと思っていた自分が、心臓手術を見学をしてみたいと思った動機は単純。自分が受けた心臓手術はどのようにして行われたのか、実際にこの目で見てみたかったからだ。
南淵先生と深津さんのアレンジで、カムバックハート仲間代表として三つ葉葵さんと私の二人に心臓手術の現場見学の機会を頂いた。希望すれば誰でもこのような機会を得られるという訳ではない。医療関係者ならまだしも、一般人である(元)心臓病患者にとっては異例の機会だ。この幸運な機会を頂いたことをありがたく南淵先生と深津さんに感謝し、(元)心臓病仲間の方々へ現場報告したいと思う。
術式は、私と三つ葉葵さんが受けたのと同じ僧帽弁形成術。
見学日程が決まって、その数日前から緊張でドキドキしてくる。ある意味、自分が心臓手術を受けた時より興奮度は高い。見学に向けて手術の手順を少しでも理解しておこうと、手持ちの心臓手術の専門書に目を通しておいた。「手術看護-手術室のプロをめざす (動画でわかるシリーズ)」
」と「「実践 人工心肺」
。
東京ハートセンターに到着。(撮影:三つ葉葵さん)
見学当日。約束の時間より早めに東京ハートセンターの受付ロビーに到着。事務の女性がエレベーターで手術室のある2階に案内してくれた。
職員の方が使う更衣室を借りて、下着の上から、青い手術着の上着とズボンを着る。靴下も脱いで手術室専用の靴下に履き替える。床で滑らないスリッパを履いて、マスクと帽子を着用する。更衣室を出て、三つ葉葵さんと一緒に流し台のような手洗い場で、消毒液を使って入念に手洗い。「手術看護-手術室のプロをめざす」
」に付属のDVD動画でこのあたりの手順は前もって勉強済。

手洗い中。(撮影:三つ葉葵さん)
準備が完了し、事務の方に手術室の中にいる外回り看護師さんに声をかけて頂いて、いざ手術室へ入室!

(撮影:三つ葉葵さん)
鼓動を測るピッ、ピッ、ピッという電子音が響く。部屋の真ん中に手術台と無影灯。手術台は思ったより高さがある。深津さんが踏み台の上に乗って術野を見おろすようにして作業をしている。我々の入室に気付き、ほほ笑んでくれた。
これが手術室か、、、と最初のうちは周りをきょろきょろ。落ち着かない。かなりの緊張と興奮状態。

一番手前にいるのが私。気分的にはかなりの興奮状態。(撮影:三つ葉葵さん)
壁のデジタル時計に、手術開始からの経過時間が表示されている。メスが入った時が手術開始の模様。開始からまだ10分ちょっとしか経っていないようだ。だが、胸骨正中切開は残念ながら既に終わった直後で、心臓を露出させるための作業中だった。
香ばしい匂いが手術室に漂っている。例えると、食用に使うクルミ油の匂い。消毒液の匂いかと思ったが、どうやら切開した皮膚や脂肪からの出血を止血する為に皮膚を焦がしている(?)、その匂いが漂っていたようだ。
手術室の室温は23度。
BGMに中国語の唄がかかっている。間違いなく南淵先生の趣味。ちなみに、手術終盤で南淵先生が手術室から退室された後は、J-POPがかかっていた。4年半前に自分の手術の時に手術室に入った時は静かなクラシック音楽がかかっていた。スタッフのメンバーが冷静に手術を行う為にクラシック音楽をかけているのかと思っていたが、今から思うと実はそうではなくて、まだ麻酔が十分かからず寝ていないかもしれない患者が入室した時に緊張しないようにクラシック音楽を聴かせていたのかもしれないなと思った。
手術室の広さは、縦10m、横8m程だろうか。小学校の教室よりはやや狭いくらいの感じ。
手術室に居たスタッフは、外科医2名、麻酔医1名、器械出し看護師2名、外回り看護師1名、人工心肺を動かす臨床工学技士が2名、あともう一人若いスタッフの方。それから、新人看護師さんが追加で2名、必死に手術を見てメモを取って勉強されていた。それに当の患者さんと、見学の我々2名。のべで言うと結構な人数である。

人工心肺装置 (撮影:三つ葉葵さん)

人工心肺装置、稼働中。(撮影:カムバックハート)
手術が開始して間もなく、南淵先生が登場。三つ葉葵さんに、「今日は、ナース服でコスプレですね!」と冗談発信!手術開始の様子を見られて一旦退出された。手術が進行し、人工心肺が起動しはじめる頃、南淵先生が再登場。Carl Zeiss社製の拡大鏡を頭に装着。(ちなみに、今日の取材撮影用の私のカメラのレンズもドイツのCarl Zeiss社製。)手術用ガウンを着て、手術手袋を深津さんとの息のあった動作で装着。この様子も「手術看護-手術室のプロをめざす (動画でわかるシリーズ)」
」のDVDで既に見ていた場面だ。

南淵先生登場!(撮影:三つ葉葵さん)

手術用ガウンを着ている南淵先生。(撮影:三つ葉葵さん)
送血管、脱血管、いくつかのチューブ類を心臓に取り付け、人工心肺装置の血流を人工的に作る円筒状の機械が動き始めてまもなく患者の心臓は心停止。実は、夢中で周りを観察をしていた為、それまでピッ、ピッと定期的に鳴っていた心拍数を示す電子音がいつの間にか止まっているのに全く気付かなかった。
手術の邪魔にならない範囲で手術室内をあちこち移動して色々な角度から手術を見せてもらった。術野近くの清潔領域には近寄れない。心臓からの距離、3~4m程のところから見学。その距離では角度があり心臓を直視するのは難しい。だが、モニター画面が2台があるので手術の進行状況は良く分かる。

左奥に南淵先生。左手前が深津さん。(撮影:カムバックハート)
ふいに、南淵先生が我々見学者二人の名前を呼び、近くに来るように指示された。先生の後ろに置いてある踏み台に乗り、先生の頭越しから実際の心臓を眺める。

南淵先生の後ろから心臓の弁の様子を見ている私。(撮影:三つ葉葵さん)
「ここが僧帽弁の後尖で、ほら、ここが歪んでいてちゃんと閉まらなくなっているでしょ。この辺を少し切って縫って、逆流が起きないようにするのが今日のプラン!」というご説明。

僧帽弁の様子。(撮影:三つ葉葵さん)
各種検査で病変の状況と治療方針はあらかじめかなりのところまで予測できているのだろう。だが、胸を開き、心臓の中の僧帽弁に生理食塩水を流してその漏れの具合を実際に目視で確認した上で、最終的な治療方針を決めている。
10分程して、再び先生が我々を呼ぶ。踏み台に昇り、再び僧帽弁を見せてくれる。今度は、水を流しても漏れない。ピンセットのような器械で弁を持ち上げると中に留まっていた水が流れ出す。最初に見せてもらった時は、水が自然に漏れ出していたが、今回はしっかり止まっている。そして、僧帽弁を縫った緑色の糸が見える。
これには驚いた。「切って縫って」の弁形成術のメインイベント。このステップをそれなりに時間をかけて慎重に行うのかと思っていたら、僅か10分程の間にその修復作業を終わらせていたのだ。時計を見ると、手術開始からまだ1時間も経っていない。その速さに驚いてしまった。

糸で縫っている南淵先生。(撮影:カムバックハート)
先生の頭越しから、生まれて初めて見た生きた心臓。大きさは両こぶしくらい。最近はTVの医療番組でも動いている心臓の映像を映し出すことがある。自分の心臓手術のDVDも何度も見ていたのだが、生の心臓を見るのはやはり感激深い。神秘性がある。無影灯に照らされたオレンジと朱色の鮮やかな筋肉の塊。僧帽弁は心臓の裏側の方に位置するので、まず右房を切開し、心房中隔から僧帽弁に到達するのだそうだ。僧帽弁の色の白さが目につく。とても人の体の中だとは思えない光景だった。例えると、臼の中に横たわっている楕円形のお餅のようなイメージかな。いや、ちょっと違うか・・・いずれにせよ、とても愛らしい対象物であることは間違いない。
手術室の無影灯は相当な熱を放出しているようだ。露出されている心臓を冷やさない為には丁度良いのかもしれない。だが、外科医は熱の暑さで大変なのではと思った。

器械を置く台。真ん中あたりに弁輪が置かれている。(撮影:三つ葉葵さん)

使った後の開胸器。これで切開した胸骨を左右に開いて心臓を露出させる。(撮影:三つ葉葵さん)
深津さんの手術室での仕事ぶりは上述の専門書に付属しているDVDで見ていた。それを今回は生で拝見。やはり、手術の進行状況を完璧に理解し、絶妙なタイミングで各種器械を外科医に実にスムーズに手渡している。TVドラマにあるように、「メス!」「メッツェン!」とか、外科医が器械の名前を呼んでから器械を手渡している訳ではない。そんな言葉は心臓手術の流れを理解していれば不要なようだ。
外科医もそうだが、深津さんは手術の最初から最後までずっと立ち仕事。しかも同じ位置からほとんど動けない。これは辛いと思う。一旦手術が始まれば、途中で休憩なんてできないし、トイレに行くこともできない。
そんな深津さんが、見学している我々に、時々視線を送ってくれたり、声をかけてくれたり、器械の説明もしてくれる。
「これが送血管で、こっちが脱血管」
「これが弁輪」
「これが、胸骨を縛るワイヤー」
「寝てる間にこんなことされてるって知らなかったでしょ!」
という風に・・・

(撮影:三つ葉葵さん)
さすがにプロ。心臓手術を進行しながらも、見学者を相手にできる余裕が伺われる。
人工心肺の開始時と、離脱時は、外科医と臨床工学技士が人工心肺の微妙な操作のタイミングをお互いに声をかけて確認しながら行っていた。しかし、それ以外の手術の進行においては、臨床工学技士に対しても麻酔科医に対しても、外科医が声に出して何かを指示するような場面はあまりないと思われた。
マスクをしている為、術中の外科医、看護師やその他のスタッフの声は、もごもごしていてかなり聞こえにくい。専門用語を理解していない我々見学者には何を話しているのか理解できない。だが、手術室スタッフの皆さんは完璧にお互いの意思を理解して手術を進めている。
心臓の弁の修復は、心臓を止めている間に行う。心臓が動いている時に逆流が起きないことを想定しての修復作業だ。だから、形成術による修復がうまくいったかどうかは、再び心臓が動き出してみないと分からない。心臓が再鼓動しはじめたら、南淵先生は、麻酔科医のところにある心エコーの画面で修復した弁の動きを入念に確認していた。滅多にないそうだが、もしこの段階で漏れがまだ見つかると、再度心臓を止めて修復し直すのだそうだ。妥協はあってはならない。

(撮影:三つ葉葵さん)
手術は予定通り進行したようで、今回の手術で私の眼にはリスクらしいリスクは全く見えなかった。そうは言っても、心臓手術。失敗の許されない緊張感の中で、経験のあるスタッフによる見事な手術手技のお陰でそうしたリスクは当然のように回避されていたのだろう。心臓手術、それは、職人が行う実にアナログな技。ビデオを見ればそれは分かるが、現場に立ち会って、なお一層その認識が深まった。
逆流の漏れがないことをテスト確認し終えて、後は胸を閉めるだけという段階になると、南淵先生が別の先生にバトンタッチ。我々の近くにやってきた南淵先生と少しお話し、素早く記念写真を撮らせて頂いた。

三つ葉葵さんと南淵先生と私(撮影:看護師さん)
胸骨をワイヤーでぐるぐるに巻いて綴じ閉める場面はやはり関心が大きかった。レントゲン写真を撮ると自分の胸に入っているワイヤーが白く写る。見た目は、普通の針金。少し野蛮なくらいに取り付けてペンチのような器具でプチップチッと切り落としていた。当然、やすりがけなどしない。止血作業を行い、胸の皮膚を縫い閉じる手術終盤に差し掛かると、外科医と器械出し看護師以外は手術室の後片づけと掃除に取り掛かる。人工心肺は次の使用に向けて整備される。使用したガーゼの枚数や器械の数をカウントし、それらが体内に留置されていないかを確認。消耗品や器材の整理を行い、手術記録の書類の記入を行う。
いよいよ創を消毒してテープを張れば手術終了という段階で、掃除の邪魔にならぬよう手術室を退室した。手術開始から約3時間15分。
手術室から出た時の充実感、達成感は大きかった。決して我々が手術をして患者さんを治療した訳ではないのに・・・
好奇心と緊張感で気持ちは張っていたが、手術中ずっと立っていたので足腰は疲れた。更衣室で着替え、控室のソファに座りこむ。近くのソファに深津さんも座りこむ。普段、外来でも手術室でもきびきびと動いている深津さんが、手術後はさすがに疲れるのかソファに座りこむのを見て、この仕事は本当に厳しい肉体労働なんだなと思った。一日に複数の手術が行われることもあるので、一日の仕事が終わる頃にはヘトヘトになることだろう。「現場の労働者よ!私たちは!」とは深津さんのお言葉。

私と深津さんと三つ葉葵さん(撮影:カムバックハート)
貴重な体験の機会を得られた今回の心臓手術見学。このブログでの報告で、(元)心臓病患者の方々に心臓手術に対する理解を得てもらいたい。少しでも不安を減らして、患者自らが信じて決めた心臓手術という治療に立ち向かっていくための参考になれば幸いだ。
今回ブログに掲載したほとんどの写真は三つ葉葵さんが撮影されたものだ。私が撮影したこの日の貴重な写真は、暗室プリント作業を経て、来るべき「(元)心臓病仲間のポートレート展」で公開しようと思っている。
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そもそも、小さい頃から医療に全く興味がなく、将来職業を選ぶときに医者にだけはなるまいと思っていた自分が、心臓手術を見学をしてみたいと思った動機は単純。自分が受けた心臓手術はどのようにして行われたのか、実際にこの目で見てみたかったからだ。
南淵先生と深津さんのアレンジで、カムバックハート仲間代表として三つ葉葵さんと私の二人に心臓手術の現場見学の機会を頂いた。希望すれば誰でもこのような機会を得られるという訳ではない。医療関係者ならまだしも、一般人である(元)心臓病患者にとっては異例の機会だ。この幸運な機会を頂いたことをありがたく南淵先生と深津さんに感謝し、(元)心臓病仲間の方々へ現場報告したいと思う。
術式は、私と三つ葉葵さんが受けたのと同じ僧帽弁形成術。
見学日程が決まって、その数日前から緊張でドキドキしてくる。ある意味、自分が心臓手術を受けた時より興奮度は高い。見学に向けて手術の手順を少しでも理解しておこうと、手持ちの心臓手術の専門書に目を通しておいた。「手術看護-手術室のプロをめざす (動画でわかるシリーズ)」

東京ハートセンターに到着。(撮影:三つ葉葵さん)
見学当日。約束の時間より早めに東京ハートセンターの受付ロビーに到着。事務の女性がエレベーターで手術室のある2階に案内してくれた。
職員の方が使う更衣室を借りて、下着の上から、青い手術着の上着とズボンを着る。靴下も脱いで手術室専用の靴下に履き替える。床で滑らないスリッパを履いて、マスクと帽子を着用する。更衣室を出て、三つ葉葵さんと一緒に流し台のような手洗い場で、消毒液を使って入念に手洗い。「手術看護-手術室のプロをめざす」

手洗い中。(撮影:三つ葉葵さん)
準備が完了し、事務の方に手術室の中にいる外回り看護師さんに声をかけて頂いて、いざ手術室へ入室!

(撮影:三つ葉葵さん)
鼓動を測るピッ、ピッ、ピッという電子音が響く。部屋の真ん中に手術台と無影灯。手術台は思ったより高さがある。深津さんが踏み台の上に乗って術野を見おろすようにして作業をしている。我々の入室に気付き、ほほ笑んでくれた。
これが手術室か、、、と最初のうちは周りをきょろきょろ。落ち着かない。かなりの緊張と興奮状態。

一番手前にいるのが私。気分的にはかなりの興奮状態。(撮影:三つ葉葵さん)
壁のデジタル時計に、手術開始からの経過時間が表示されている。メスが入った時が手術開始の模様。開始からまだ10分ちょっとしか経っていないようだ。だが、胸骨正中切開は残念ながら既に終わった直後で、心臓を露出させるための作業中だった。
香ばしい匂いが手術室に漂っている。例えると、食用に使うクルミ油の匂い。消毒液の匂いかと思ったが、どうやら切開した皮膚や脂肪からの出血を止血する為に皮膚を焦がしている(?)、その匂いが漂っていたようだ。
手術室の室温は23度。
BGMに中国語の唄がかかっている。間違いなく南淵先生の趣味。ちなみに、手術終盤で南淵先生が手術室から退室された後は、J-POPがかかっていた。4年半前に自分の手術の時に手術室に入った時は静かなクラシック音楽がかかっていた。スタッフのメンバーが冷静に手術を行う為にクラシック音楽をかけているのかと思っていたが、今から思うと実はそうではなくて、まだ麻酔が十分かからず寝ていないかもしれない患者が入室した時に緊張しないようにクラシック音楽を聴かせていたのかもしれないなと思った。
手術室の広さは、縦10m、横8m程だろうか。小学校の教室よりはやや狭いくらいの感じ。
手術室に居たスタッフは、外科医2名、麻酔医1名、器械出し看護師2名、外回り看護師1名、人工心肺を動かす臨床工学技士が2名、あともう一人若いスタッフの方。それから、新人看護師さんが追加で2名、必死に手術を見てメモを取って勉強されていた。それに当の患者さんと、見学の我々2名。のべで言うと結構な人数である。

人工心肺装置 (撮影:三つ葉葵さん)

人工心肺装置、稼働中。(撮影:カムバックハート)
手術が開始して間もなく、南淵先生が登場。三つ葉葵さんに、「今日は、ナース服でコスプレですね!」と冗談発信!手術開始の様子を見られて一旦退出された。手術が進行し、人工心肺が起動しはじめる頃、南淵先生が再登場。Carl Zeiss社製の拡大鏡を頭に装着。(ちなみに、今日の取材撮影用の私のカメラのレンズもドイツのCarl Zeiss社製。)手術用ガウンを着て、手術手袋を深津さんとの息のあった動作で装着。この様子も「手術看護-手術室のプロをめざす (動画でわかるシリーズ)」

南淵先生登場!(撮影:三つ葉葵さん)

手術用ガウンを着ている南淵先生。(撮影:三つ葉葵さん)
送血管、脱血管、いくつかのチューブ類を心臓に取り付け、人工心肺装置の血流を人工的に作る円筒状の機械が動き始めてまもなく患者の心臓は心停止。実は、夢中で周りを観察をしていた為、それまでピッ、ピッと定期的に鳴っていた心拍数を示す電子音がいつの間にか止まっているのに全く気付かなかった。
手術の邪魔にならない範囲で手術室内をあちこち移動して色々な角度から手術を見せてもらった。術野近くの清潔領域には近寄れない。心臓からの距離、3~4m程のところから見学。その距離では角度があり心臓を直視するのは難しい。だが、モニター画面が2台があるので手術の進行状況は良く分かる。

左奥に南淵先生。左手前が深津さん。(撮影:カムバックハート)
ふいに、南淵先生が我々見学者二人の名前を呼び、近くに来るように指示された。先生の後ろに置いてある踏み台に乗り、先生の頭越しから実際の心臓を眺める。

南淵先生の後ろから心臓の弁の様子を見ている私。(撮影:三つ葉葵さん)
「ここが僧帽弁の後尖で、ほら、ここが歪んでいてちゃんと閉まらなくなっているでしょ。この辺を少し切って縫って、逆流が起きないようにするのが今日のプラン!」というご説明。

僧帽弁の様子。(撮影:三つ葉葵さん)
各種検査で病変の状況と治療方針はあらかじめかなりのところまで予測できているのだろう。だが、胸を開き、心臓の中の僧帽弁に生理食塩水を流してその漏れの具合を実際に目視で確認した上で、最終的な治療方針を決めている。
10分程して、再び先生が我々を呼ぶ。踏み台に昇り、再び僧帽弁を見せてくれる。今度は、水を流しても漏れない。ピンセットのような器械で弁を持ち上げると中に留まっていた水が流れ出す。最初に見せてもらった時は、水が自然に漏れ出していたが、今回はしっかり止まっている。そして、僧帽弁を縫った緑色の糸が見える。
これには驚いた。「切って縫って」の弁形成術のメインイベント。このステップをそれなりに時間をかけて慎重に行うのかと思っていたら、僅か10分程の間にその修復作業を終わらせていたのだ。時計を見ると、手術開始からまだ1時間も経っていない。その速さに驚いてしまった。

糸で縫っている南淵先生。(撮影:カムバックハート)
先生の頭越しから、生まれて初めて見た生きた心臓。大きさは両こぶしくらい。最近はTVの医療番組でも動いている心臓の映像を映し出すことがある。自分の心臓手術のDVDも何度も見ていたのだが、生の心臓を見るのはやはり感激深い。神秘性がある。無影灯に照らされたオレンジと朱色の鮮やかな筋肉の塊。僧帽弁は心臓の裏側の方に位置するので、まず右房を切開し、心房中隔から僧帽弁に到達するのだそうだ。僧帽弁の色の白さが目につく。とても人の体の中だとは思えない光景だった。例えると、臼の中に横たわっている楕円形のお餅のようなイメージかな。いや、ちょっと違うか・・・いずれにせよ、とても愛らしい対象物であることは間違いない。
手術室の無影灯は相当な熱を放出しているようだ。露出されている心臓を冷やさない為には丁度良いのかもしれない。だが、外科医は熱の暑さで大変なのではと思った。

器械を置く台。真ん中あたりに弁輪が置かれている。(撮影:三つ葉葵さん)

使った後の開胸器。これで切開した胸骨を左右に開いて心臓を露出させる。(撮影:三つ葉葵さん)
深津さんの手術室での仕事ぶりは上述の専門書に付属しているDVDで見ていた。それを今回は生で拝見。やはり、手術の進行状況を完璧に理解し、絶妙なタイミングで各種器械を外科医に実にスムーズに手渡している。TVドラマにあるように、「メス!」「メッツェン!」とか、外科医が器械の名前を呼んでから器械を手渡している訳ではない。そんな言葉は心臓手術の流れを理解していれば不要なようだ。
外科医もそうだが、深津さんは手術の最初から最後までずっと立ち仕事。しかも同じ位置からほとんど動けない。これは辛いと思う。一旦手術が始まれば、途中で休憩なんてできないし、トイレに行くこともできない。
そんな深津さんが、見学している我々に、時々視線を送ってくれたり、声をかけてくれたり、器械の説明もしてくれる。
「これが送血管で、こっちが脱血管」
「これが弁輪」
「これが、胸骨を縛るワイヤー」
「寝てる間にこんなことされてるって知らなかったでしょ!」
という風に・・・

(撮影:三つ葉葵さん)
さすがにプロ。心臓手術を進行しながらも、見学者を相手にできる余裕が伺われる。
人工心肺の開始時と、離脱時は、外科医と臨床工学技士が人工心肺の微妙な操作のタイミングをお互いに声をかけて確認しながら行っていた。しかし、それ以外の手術の進行においては、臨床工学技士に対しても麻酔科医に対しても、外科医が声に出して何かを指示するような場面はあまりないと思われた。
マスクをしている為、術中の外科医、看護師やその他のスタッフの声は、もごもごしていてかなり聞こえにくい。専門用語を理解していない我々見学者には何を話しているのか理解できない。だが、手術室スタッフの皆さんは完璧にお互いの意思を理解して手術を進めている。
心臓の弁の修復は、心臓を止めている間に行う。心臓が動いている時に逆流が起きないことを想定しての修復作業だ。だから、形成術による修復がうまくいったかどうかは、再び心臓が動き出してみないと分からない。心臓が再鼓動しはじめたら、南淵先生は、麻酔科医のところにある心エコーの画面で修復した弁の動きを入念に確認していた。滅多にないそうだが、もしこの段階で漏れがまだ見つかると、再度心臓を止めて修復し直すのだそうだ。妥協はあってはならない。

(撮影:三つ葉葵さん)
手術は予定通り進行したようで、今回の手術で私の眼にはリスクらしいリスクは全く見えなかった。そうは言っても、心臓手術。失敗の許されない緊張感の中で、経験のあるスタッフによる見事な手術手技のお陰でそうしたリスクは当然のように回避されていたのだろう。心臓手術、それは、職人が行う実にアナログな技。ビデオを見ればそれは分かるが、現場に立ち会って、なお一層その認識が深まった。
逆流の漏れがないことをテスト確認し終えて、後は胸を閉めるだけという段階になると、南淵先生が別の先生にバトンタッチ。我々の近くにやってきた南淵先生と少しお話し、素早く記念写真を撮らせて頂いた。

三つ葉葵さんと南淵先生と私(撮影:看護師さん)
胸骨をワイヤーでぐるぐるに巻いて綴じ閉める場面はやはり関心が大きかった。レントゲン写真を撮ると自分の胸に入っているワイヤーが白く写る。見た目は、普通の針金。少し野蛮なくらいに取り付けてペンチのような器具でプチップチッと切り落としていた。当然、やすりがけなどしない。止血作業を行い、胸の皮膚を縫い閉じる手術終盤に差し掛かると、外科医と器械出し看護師以外は手術室の後片づけと掃除に取り掛かる。人工心肺は次の使用に向けて整備される。使用したガーゼの枚数や器械の数をカウントし、それらが体内に留置されていないかを確認。消耗品や器材の整理を行い、手術記録の書類の記入を行う。
いよいよ創を消毒してテープを張れば手術終了という段階で、掃除の邪魔にならぬよう手術室を退室した。手術開始から約3時間15分。
手術室から出た時の充実感、達成感は大きかった。決して我々が手術をして患者さんを治療した訳ではないのに・・・
好奇心と緊張感で気持ちは張っていたが、手術中ずっと立っていたので足腰は疲れた。更衣室で着替え、控室のソファに座りこむ。近くのソファに深津さんも座りこむ。普段、外来でも手術室でもきびきびと動いている深津さんが、手術後はさすがに疲れるのかソファに座りこむのを見て、この仕事は本当に厳しい肉体労働なんだなと思った。一日に複数の手術が行われることもあるので、一日の仕事が終わる頃にはヘトヘトになることだろう。「現場の労働者よ!私たちは!」とは深津さんのお言葉。

私と深津さんと三つ葉葵さん(撮影:カムバックハート)
貴重な体験の機会を得られた今回の心臓手術見学。このブログでの報告で、(元)心臓病患者の方々に心臓手術に対する理解を得てもらいたい。少しでも不安を減らして、患者自らが信じて決めた心臓手術という治療に立ち向かっていくための参考になれば幸いだ。
今回ブログに掲載したほとんどの写真は三つ葉葵さんが撮影されたものだ。私が撮影したこの日の貴重な写真は、暗室プリント作業を経て、来るべき「(元)心臓病仲間のポートレート展」で公開しようと思っている。